誰も見たことがない新しい「金魚」
あなたの心の奥深くに潜む、あなたの想いはどんな形をしているのでしょう?
心の奥から自然と涌き出てくる衝動を形にしたものが、アートなのだと私は思うのです。
美術作家 深堀隆介さん。
深堀さんが長いスランプの果てにやっと捉えることができた衝動。
スランプから抜け出すきっかけも、そして捉えた衝動も「金魚」でした。
深堀さんの金魚を初めて見た時の衝撃、そして感動!
「生きた金魚を閉じ込めちゃったの?!」
「え?描いてるの?」
「どうやって?」
初めて見た人は、絶対にこの3つの思いが頭の中を駆け巡ると思います。
やがて時間がたち、頭の中の混乱がおさまってくると、まるで池の波紋のように緩やかに心の中に感動が広がっていきます。
出展:BS朝日 Colors 〜自分ヲ彩る色〜
金魚との出会い
『怪しくも見えた。
怪しさと美しさというのが同時にドーンときて。
魔力のようなものを持っているような気がして、金魚が。』
15年前のある日、アートをやめようとしていた深堀さんは、7年前の夏祭りですくってきた1匹の金魚に救われます。
「ああ、もう美術なんてやめてしまおう。」と思った時、ベッドの横にある小さな水槽が目にとまりました。
名前こそキンピン(メス)とつけてはいたものの、たいして可愛がりもせず、粗末に扱っていた金魚。
汚れた水の中でフンまみれ、ぼろぼろになりながらも彼女は生き続け、20cm以上になっていました。
水槽のふたを開け、上からその彼女の赤い背中を見た瞬間、深堀さんの背中に電流が走りました。
「何故いままでその美しさに気がつかなかったのか。
何故いままでその狂気に気がつかなかったのか。
金魚には全てがある。だから美しいのだ。」
「この子がきっと僕を救ってくれる。」
そう信じて、彼女をモデルに筆を走らせます。
楽しい!楽しい!楽しい!
あっという間に金魚の大群が生まれました。
探し求めていた答えを見つけられたこの日の出来事を、深堀さんは「金魚救い」と呼びとても大切にしているのです。
偶然見つけた新しい表現方法
『顔料のみが樹脂中に浮く、という状態が起こる。
そういう絵画というのは今までなかったんじゃないか。
器の底に顔料そのものの影が落ちると…
その影っていうのは人類は見たことがない影なんじゃないか?
描けるかなーと思って描いて樹脂を流したっていうのが、
そしたら絵の具が溶けずに固まってたんですよ、きれいに絵のまま。
で、あーこれだと思って。』
深堀さんが作り出すのはまるで生きているかのような金魚を描いた作品。
それを可能にするのが独自の技法です。
アクリル樹脂の上に金魚を描いては樹脂を流し込むことを繰り返す。
幾重にも重なった金魚の絵は、数ヶ月後、水中を泳ぐ立体的な金魚となるのです。
偶然発見した新しい表現方法により、深堀さんの想いが全く新しいアートへと昇華されていきます。
金魚を通して続く自分探しの旅
『のってくると金魚の水の匂いがするんですよ。
こう、ゆらって動いている自分の中の心の中にいる金魚… 幻のような。
なんかそういう幻を描きたいっていうか、自分の中にある幻影っていうか…
僕も絵で描いているけれども、こいつらは生きてるってやっぱ信じてて。
僕はやっぱり金魚を描いてますけど人間だと思って描いてて、
人間とは何かっていうか、どう生きていったらいいのかとか、
何かそういうことを金魚の形を借りて表現しているだけであって、
なんかいい言葉を見つけたっていうか、
「金魚」っていう言葉を見つけて表している感じです。』
『自分が何者であるのか知りたい—
作品創作とは、自分の心の奥に潜む、自分の知らない自分を探す行為なのだ。
アーティストにとって、自分の衝動を的確に捉え、作品の中に生かすことは、
「作家」として自立する上で最も重要な課題とも言えるだろう。
そして、僕の場合、その衝動がまさに「金魚」だったのだ。』
と深堀さんは言います。
深堀さんが作品を発表してから、このテクニックを真似て作品を作る人も出てきました。
でも、深堀さんの作品を超えることはできないと私は思うのです。
なぜならこの「金魚」たちは深堀さんそのものだからです。
技術的には深堀さんを超えることが出来るかもしれません。
技術がいくら洗練されていても、核となる心からの想いが入っていない作品は、単なる「美しい物」でしかなく、心を打つことはありません。
確かに、目にした瞬間はその美しさ、テクニックの素晴らしさに目を奪われ、一瞬の感動を感じることでしょう。
でも、美しさだけで想いが見えてこない作品はすぐに飽きられます。
深堀さんのアートな「金魚」は世界中の人々を魅了し続けています。
「金魚について考え、表現すること」=「自分を見つめ、アイデンティティを追求すること」という深堀さんが創り出す金魚たちだからこそ、私たちはその作品に感動せずにはいられないのです。
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