安藤緑山の超絶技巧の世界
大正から昭和初期にかけて、後世に残るような優れた芸術品が日本でいくつも生まれています。
その中でも「超絶技巧」と呼ばれる驚きの匠の技で作品を作り上げた、安藤緑山(あんどうろくざん)という彫刻家をご存知ですか?
この作品をご覧になっていただければ、その超越した技術のすごさを一目で感じてもらえると思います。
「竹の子、梅」出展:清水三年坂美術館
細部にわたるまで本物の竹の子と見間違えてしまうほどの繊細さで作られている、まるで写真のようなこの作品。
いったい何で作られているのかわかりますか?
なんと、象牙でできているのです!
安藤緑山の代表作でもある「竹の子、梅」は象牙彫刻、牙彫(げちょう)の作品です。
固い象牙を彫って作られているとはにわかには信じがたいほどの精巧さ。
本物のぬくもりすら感じられるその作品は、どこから見ても象牙の冷たさが微塵も感じられないのです。
他の作品も驚きのリアルさで表現されています。
安藤緑山の作品を実際に目にして真っ先に感じたのは、まるで命の息吹が聞こえてきそうな、そのみずみずしさ!
固い象牙をこれほどまで薄く細かく彫り、さらに本物と見紛うほどに再現された繊細な色付け。
本当に、見た瞬間に言葉を失い、引き込まれてしまうような作品たちでした。
「南國珍果」 出展:清水三年坂美術館
謎の牙彫師、安藤緑山とは
安藤緑山(あんどうろくざん 1885〜1955年)については、牙彫作家として大正から昭和初期に活動をしていたこと、作品は野菜や果物など身近なものをモチーフにし、およそ50点あまりの作品を残していることなどがわかっていますが、それ以外の生涯や人柄、背景などはほとんどわかっていません。
生涯において弟子もとらずにいたため、どのようにしてこれらの作品が作られたのか、その制作技法も詳しいことはわかっておらず、最近になってようやく科学技術の発達によって研究が進み、少しずつ明らかになってきているそうです。
X線検査や顕微鏡による細部までの観察によって、大きな作品はねじなどで接合することで作られていることや、金属を主成分とした無機系着色料を用いていた可能性など、新たな発見がされています。
牙彫の歴史と安藤緑山の生きた時代背景
「蕪、パセリ」 出展:清水三年坂美術館
安藤緑山が主に活動をしていた時代は、牙彫はすでに下火に差しかかっていたようです。
象牙は古くは正倉院宝物となっている工芸品にも使われていました。
牙彫は江戸時代に盛んになり、明治時代には外貨獲得の国策として国を挙げて盛んに輸出されていました。
しかし、牙彫は美術工芸品として難易度が高く、一つの作品を完成させるまでに時間もかかるため、牙彫の人気は次第に沈静化していきました。
当時の美術界では”白地の肌合い”こそが牙彫の王道で主流でした。
安藤緑山は「象牙に着色すると色が滲んで独特の味わいを持つ」という彼独自の流儀を持ち、牙彫に鮮やかな着色を施しました。
緑山の主流から外れた制作態度は異端視されていたようで、その繊細で高い技巧にもかかわらず、これほど素晴らしい作品でありながらも当時はあまり高い評価を得られませんでした。
かつて日本は象牙の最大の輸入国でもありました。
象牙はたくさんの美術工芸品にも使われ、明治時代には一大ブームを巻き起こしましたが、現代ではご存知の通り象牙の取引はワシントン条約で禁止されているため、一時期のように象牙の印鑑を見ることも少なくなりました。
需要も減少した今、象牙彫刻師は高齢化も進み、東京、京都にわずかしかいないそうです。
安藤緑山の作品はどこで見ることができる?
京都の清水三年坂美術館で安藤緑山の作品を見ることができます。
「竹の子、梅」「三茄子」「南國珍果」などが常設展示されています。(2016年9月 現在)
清水三年坂美術館についてはこちらをご覧ください。
「蜜柑」 出展:清水三年坂美術館
清水三年坂美術館のオンラインショップでは、安藤緑山の作品のポストカードが販売されています。
→ 清水三年坂美術館オンラインショップ
「美の巨人たち」で紹介された安藤緑山
2014年に三井記念美術館で行われた「明治工芸の粋」展では安藤緑山の作品が集められ、テレビ東京の番組「美の巨人たち」で取り上げられたこともあり、緑山の代表作である「竹の子、梅」は多くのお茶の間の人々を魅了しました。
三井美術館で行われた「明治工芸の粋」で展示された作品の動画がありましたので、安藤緑山の世界観を感じていただければと思います。
いかがでしょう?
果物の皮の艶やかさ、葉のやわらかさ、躍動感のある構図、どれをとっても本当にそこに本物の野菜や果物が置いてあるとしか思えませんよね!
皮をむいたら実が出てきそうなこの野菜や果物の中身が象牙だなんて、本当に信じられません!
機会がありましたら、ぜひ実物の作品をご覧になって、その息吹を感じてほしいと思います。
スポンサーリンク